美しくも悲しい孤独な物語「ハンター」

タスマニアタイガーって知ってますか?

絶滅種を狩れ、って言われたらどうしよう。普段からそんな悩みを抱えて生活している人は皆無だと思います。そもそも存在しない動物とどうやって出会えばいいんだって話です。映画「ハンター」でウィレム・デフォー演じるマーティンが命じられたのは、まさに絶滅したタスマニアタイガーのハンティングでした。

そもそもタスマニアタイガーってどんな動物かご存知ですか?タスマニアって名前からして、タスマニアデビルと関係があるのはわかりますね。タイガーというからには獰猛な肉食獣なんでしょう、などと推測するのも楽しいです。しかし今はインターネットで調べれば、1発でタスマニアタイガーの情報が白日の下に晒されてしまう時代です。簡単に画像が見つかりました。

なんというか、アンバランスな体型をしていますね。タスマニアタイガーは通称フクロオオカミと呼ばれているのですが、確かに虎というよりオオカミです。飼い犬にタマと名付けるような違和感があります。

雄大な自然を舞台にしたドラマ

ハンターの主人公のマーティンは冷然な傭兵です。淡々と職務をこなし、1人静かに行動します。演じるウィレム・デフォーは個性派俳優として知られ、色物から渋い所なんでもござれ。映画「処刑人」で女装して男と熱いキスまでやってのけたのだから、哀愁漂うハンターなんて朝飯前かもしれませんね。いや、簡単そう見せる力量がそもそも彼の凄いところでしょう。

マーティンが駆け回るタスマニアの森は、豊かな自然に恵まれた土地。映像に引き込まれる、という表現がふさわしい美しさです。そこでタスマニアタイガーを見つけるためにマーティンは罠を仕掛けるのですが、デフォーは実際にサバイバル術を学び映画に臨んだそうです。手つきが熟れています。

映画の見所は自然だけに留まりません。人間ドラマも重要なシークエンスです。マーティンは下宿先のアームストロング家の人間と交流していく中で、人間的な変化を見せます。これはタスマニアタイガーに対する思いにも影響し、後の展開に深く影響することとなります。またタスマニアの森を舞台に、伐採して生計を立てる人々と環境保全を訴える団体との確執が描かれています。

人対獣という枠だけでなく、普遍的な環境問題にもスポットライトを当てているのが「ハンター」です。人為的に破壊されている森林に心を傷める気持ちも、自然の恩恵を得て豊かな暮らしを望む気持ちも間違いではありません。この映画でも、両者の意見にメスを入れませんでした。マーティンは深い思慮の奥に何を思うのでしょうか。

ハンティングを越えた重厚なドラマ

タスマニアタイガーを絶滅に追い込んだのは、他でもない人間です。家畜が多大な被害にあったため、自己防衛のために駆逐したのです。確かにタスマニアタイガーのせいで、食卓からハンバーグが消えたら「害獣許すまじ」とタスマニアの森へ飛び出す自信があります。

それでも種を根絶やしにするのは流石にやりすぎというもの。タスマニアの自然を蹂躙した人間の罪は重いです。マーティンは人類の過ちにケリをつけるため、タスマニアタイガーを狩るわけではありません。あくまで仕事です。

しかしアームストロング家で過ごした時間は、タスマニアタイガーを狩る意味そのものを変えました。タスマニアの森で孤独に暮らす虚しさと、人間の欲望の愚かさに終止符を打つために、マーティンは狩りに出かけます。その最期の瞬間は胸にこみ上げるものがあり、図らずも死生観を考えさせられました。大人のための映画です。ゆったりとした休日に楽しんで頂きたいと思います。Netflixで好評配信中。

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