映像の泡が楽しい『ムード・インディゴ うたかたの日々』を見逃してはいませんか?

  

この映画は、フランス映画ですが、英語題はMood Indigo。「藍色のムード」とは何かというと、この映画がしきりに引用する往年のジャズ・バンドのリーダーのデューク・エリントンの名曲のタイトルでもあるのです。

ちょっと不思議な作品なんですが、このレビューもそんな作品のテイストに合わせてみました!?

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原作流の奔放なイマジネーション

原作はフランスの作家ボリス・ヴィアンによる1947年の小説で、一見、パリに暮らす若者たちを描いた青春小説ですが、現実にはありえない幻想的な出来事が頻発したり、SF的なアイテムが登場するなど、奔放なイマジネーションによって彩られた、独特の世界観がある作品で、60年代には副題にもなっている『うたかたの日々』というフランス映画にもなっており、さらに2001年には『クロエ』という日本映画にもなっているほどのカルトな小説です。

 

 

 

 

ゴンドリー監督のミュージック・ビデオは必見だ!

それをみごとに映像化したのは、ローリング・ストーンズやシェリル・クロウやビョークといった世界的に有名なアーティストのミュージック・ビデオの作者として名を成したミシェル・ゴンドリーというフランスの監督です。

たとえば、ドナルド・フェイゲンのSnow Boundという曲のミュージック・ビデオを、YouTubeあたりで観ていただきたいのですが、未来都市のような世界で繰り広げられるSFチックなコマ撮りのアニメーションがかわいくて、斬新で、ほんとにすばらしい。

というような監督ですから、おそらく原作に触発された、遊びすぎでしょと言ってもいいくらい、奇抜な映像が開巻から展開するのです。

天衣無縫のビジュアルというのは、こういうのを言うのでしょうね。そんなのありえないでしょ的な、いいかげんさがコミカルでついつい笑ってしまうのです。

アニメーションばかりでなく、随所に出てくる小道具や美術もすばらしいです。

 

たとえば、デューク・エリントンの超有名なスタンダード・ナンバー「A列車で行こう」のフルバンドの演奏がバックにかかる中、未来的な講堂の中にあるオートメーション工場のラインのようなテーブルに流れてくるのは、ハムのような食品ではなく、無数のタイプライターで(というのがまず笑っちゃいますが)、カジュアルな服装の大勢の人たちがそれに向かって、タイプを打っています。

タイプライターが流れ作業で動いていってしまうので、次の人に途中で渡し、その次の人はこれまた途中で次の人に渡し…という具合に、いい加減な作業が続いていくのですが、おそらくこれは作者の「脳内の」作業という意味らしく、「コリンはその時、身支度していた」と、みんなでタイプに打っていく内容が物語を伝えます。という奇想のジャブから始まります。

 

 

何でものび~る世界

すると、コランという主人公の青年は、お風呂につかっていて、お湯から顔を上げると、電気ドリルのようなものを風呂桶にジャボンと入れて、何をするのかと思うと、風呂桶に穴を開けてしまいます。

アパートの下の階のおばさんは、天井から漏れてきたお湯に怒るどころか、そのお湯を喜び、鉢植えを移動してありがたく頂きます。

すると、鉢植えの植物はみるみるビロ~ンと成長をし始め、主人公と意思の疎通ができるネズミは、はさみの指を入れる丸いほうでシャボン玉遊びをするという、子供なら大喜びしてしまう展開です。また、ビグルモアという脚がゴムのようにビヨ~ンと伸びるこの不思議なダンスがおもしろい。

 

このありえない伸びる脚を、見てください。笑えますよ。

「コランは働かなくても生活できる財産があった」と、また画面上のタイプライターが説明してくれる通り、主人公のコランは、財産があるので、仕事はしておらず、日々を気ままに過ごす、いわゆる「高等遊民」。

食事はニコラという黒人の遊び人のコックにやらせ、食材のウナギが水道の蛇口から出てきたりします。

名前のアナグラム

しばらくして、ジャン=ソオル・パルトルという作家に心酔してる男友達のシックがアパートにやってくるんですが、もちろん、この作家の名前はジャン=ポール・サルトルのパロディです。Paul SartreのPとSを入れ替えたアナグラムなんですけどね。

なんでも、原作者がサルトルのお友達だったので、許されたんでしょう。目がひどい斜視で、大丈夫かなってぐらいイジくられてます。

 

 

空飛ぶ電車の家

さて、コランはぜんぜん仕事はしてないんですが、空中に吊り下げられた電車の中に住んでるんです。そして、自分で作って、やっと完成したという“カクテル・ピアノ”を友達のシックに自慢します。すごいピアノです。

ピアノを弾いてるうちに、ほんとにカクテルができて、お酒や香料が各音符になって、音の長さで分量が決まり、短調だと懐かしい味に、長調だと陽気な味になるから、二重の意味で「傑作」なのです。こんなのが家にあったらいいですよね。

その日の気分で新しいカクテルが飲めるんですから。特にカクテルが好きな女性にはうれしいでしょう。

そして、シックは名曲“キャラバン”を弾きます。どんな味になるんだろうなあ。

 

ゴンドリー監督は音楽の趣味がほんとによくて、古いジャズばかりかと思いきや、前半の最後には、大人向けのAORの雄、アメリカン・ロックのボズ・スキャッグスの“Lowdown”がかかり、ドラマを軽快に盛り上げてくれます。

 雲のようなふわふわした恋

ドラマといえば、女っけのないコランが、友達の紹介で、パーティーに行った時、クロエという女性に一目惚れし、コランとこのクロエの恋がドラマの中心になっていくのですが、コランを演じているのが、ややムサいロマン・デュリス、そして、クロエを演じているのが『アメリ』のオドレイ・トトゥ。オドレイは、ほんとにかわいらしい女性で、おきれいです

。ぶきっちょな22才の男が、まるで少女のようなクロエと果たしてどうなっていくのか、楽しさと悲しさに彩られた、奇想とアンニュイの125分です。

さすがは元ドラマーの監督

やがてドラマが終わって、クレジット・タイトルが流れてきますが、すぐに切らないでじっと見ていると、驚いたことに小さくポール・マッカートニーの名前が出てきます。

そう、この映画の音楽には、ポールも参加していたのですね。ゴンドリー監督は、ポールのミュージック・ビデオを作ってますし、もともと自らのバンドでドラムをやっていただけあって、映画にリズムがあります。

すべては人生の泡

後半はちょっと悲しいトーンになっていきますが、この遊び心満載のドラマは女性といっしょに見たら、きっとその女性は少女のようにケラケラ笑うはずです。コランのようにあなたもモテるようになるかどうかは保証しませんけどね。

この映画のフランス語のタイトルはL’Écume des jours。「日々の泡」と訳されていますが、ecumeとは、料理の時に出る「あく」のことでもあります。この映画から「あく」を取ってしまったら、ほんとに味気ない作品となってしまうでしょう。

どうか、この「あく」を心ゆくまで味わってください。「あく」があってこその人生ではありませんか!! 「泡」と見るか、「あく」と見るかは、あなた次第です。

 

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