時代劇『隠し剣 鬼の爪』で心にしみる悲恋とえぐい秘剣の二刀流を味わってみませんか?

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時代小説の巨匠、藤沢周平の原作をもとに、同じく今や日本映画界の巨匠となった山田洋次監督がメガホンをとった〝時代劇三部作〟というのが、2002年から2年ごとに3作公開されました。

隠し剣 鬼の爪 のみどころ

狭間でギラリと光る一閃

2002年の『たそがれ清兵衛』、2004年の『隠し剣 鬼の爪』、そして2006年の『武士の一分』の三作です。

それぞれ興業収入が真田広之主演の『たそがれ清兵衛』が16億、『隠し剣 鬼の爪』が推定で8億、『武士の一分』が今話題のSMAPの木村拓哉主演ということで、最後がグンとはね上がっていますが、今回はその間に埋もれて、まさに〝隠し剣〟状態の『・・・鬼の爪』に注目してみたいと思います。

永瀬のいぶし銀の演技と存在感

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舞台は幕末。幕末。東北の小藩である海坂藩の平侍であった片桐宗蔵を演じるのは、時代劇のイメージの薄い永瀬 正敏。

永瀬といえば、まずは、〝きょんきょん〟こと小泉今日子と結婚してた人というイメージが強いかもしれません(ちなみにその後離婚)。

でも、そっちではなくて、日本人でありながらジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』に出演して注目を浴びて以来、正直、映画ではなかなかお目にかかっていないような気がしていた永瀬の時代劇というのがダブルで新鮮です。

その永瀬がいかにも藤沢周平の主人公にふさわしく、寡黙で、謎めいた、いわくありげな侍を好演しております。

さて、舞台は幕末ですから、海坂藩にも近代化の波は押し寄せつつあり、藩では英国式の教練が取り入れられ始めております。

剣術指南役・戸田寛斎の門下生であった宗蔵は藩でも一、二を争う剣術の使い手でありましたが、同じ門下生であった朋友の狭間弥市郎にはどうしても勝てずにおりました(小澤征悦が演じておりますが、これまた鬼気迫る演技)。

藩に大事件勃発

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そんな折、海坂藩に大事件が勃発します。尊王攘夷に凝り固まった狭間が藩主の謀反を企んだ罪で囚われ身となり、やがて山奥にある牢から脱獄して、藩は大騒ぎになります。

緒形拳演ずる憎々しい家老は、すぐに〝二番手〟の剣の使い手である宗蔵に「狭間は藩きっての剣の使い手だ。あいつを討てるのは、お前しかおらん」とばかり、追っ手の大任を命じます。

宗蔵の許されぬ恋

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一方、宗蔵には嫁がまだおらず、家にはきえという農家出身の女中が身のまわりの世話をしており、そろそろ嫁入りの年頃だというので、商家に嫁に入ります。

ところが、嫁入り先の商家の姑が〝鬼ばば〟と言われるほど〝嫁いびり〟がひどく、きえは病に伏して、狭い部屋に閉じ込められ、食事もろくに与えられない目も当てられない状態でした。

それを聞きつけた宗蔵は、商家に怒鳴り込み、剣も抜くやとばかりの権幕で背中におぶってきえを家に連れ帰り、実家に帰します。やることがまるで中世の騎士的です。めちゃくちゃジェントルマンなのです。

それに加え、実は宗蔵はきえに心を寄せており、片やれっきとした武士、片や貧乏な農家の娘という身分の違いからか、たがいに許されない相手なのでした。

大和撫子の理想像

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 器量よしで、人一倍気働きもできて、またいざという時は本当のことをずばりと言ってくれるこのきえを演じているのが、松たか子です。

三歩下がってという日本人の理想の女性像じゃないですかね。

今どきそんな人はいないよとか、そんなの古いよという向きもおられるでしょうが。

あくまで当時の理想像ということです。

鬼の爪とは?!

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さて、いよいよ宗蔵は逃げた狭間の隠れ先を藩の隠密から聞き、いよいよ一騎打ちへと向かいます。

果たしてその結末は? また、〝鬼の爪〟というのは何でしょう? 宗蔵はその戦いに向かうにあたって、再び剣術指南役・戸田寛斎のもとを訪ね、教えを乞います。

しかし、狭間ではなく宗蔵にだけ教えた秘伝の〝鬼の爪〟がどんな技なのかは、ここでも明かされません。

どうかそれは映画をご覧になって、ご自分の目でお確かめください。なるほどこれかという気持ちになるのは間違いないでしょう。

安心感たっぷりの演出と脚本の「隠し剣」

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思えば一番大ヒットした『武士の一分』も藤沢周平の〝隠し剣〟シリーズの一篇が原作となっており、原作を読んだ方は、これだけしか書いてない原作をよくここまでふくらませたものだと感心なさったことのではないでしょうか?

さすが山田洋次と名コンビの脚本家朝間義隆です。

そして、このコンビで今回もまた〝隠し剣〟の一つが楽しめ、名コンビの名案内役で大船に乗った気分になれます。『武士の一分』の〝一分〟を「いちぶん」ではなく、「いっぷん」と読む若い人がいたというのが笑い話になっていますが、この『鬼の爪』は131分(ぷん)の二時間を優に超える長尺です。

間違いなく、武士が131倍楽しめる作品でしょう。

なお、『武士の一分』について書ける機会がありましたら、ライターの一分にかけて書く所存。その時は、いざ、〝鬼の筆〟に相つとめましょう。