マフィア映画の大傑作『フェイク』のマニアックな見方 | Netflix日本非公認ファンブログ

マフィア映画の大傑作『フェイク』のマニアックな見方

むかしアメリカ人の友達に、「英語がおもしろい映画はない?」と聞いたことがあって、「お前は “Donnie Brasco”を観たか?」と聞かれてぎくっとしたことがあります。うっかり観そこなっていたからです。

それが、今回紹介するマフィア映画の大傑作『フェイク』なんですが、そもそも原題の ”Donnie Brasco” とを聞いて、すぐに『フェイク』と答えられる人がどれだけいるでしょう?

確かにアメリカ映画には、レオナルド・ディカプリオの初期の『ギルバート・グレイプ』だの、環境汚染を告発したジュリア・ロバーツの『エリン・ブロコビッチ』だの、人物名の作品が多くあります。

トム・クルーズ主演の初期の作品にも邦題が『ザ・エージェント』という作品がありましたが、原題は “JERRY MAGUIRE” だという人名なのです。

あまり世間では言われませんが、アメリカ映画には、人名がタイトルになる隠れた伝統があるようで、この『フェイク』もその例にもれません。

主人公のドニー・ブラスコって何者?

では、そのドニー・ブラスコというのは、一体どういう人物なのでしょうか?

70年代当時、マフィアの犯罪組織に潜入して大活躍したドニー・ブラスコというFBIの特別捜査官がいました。

ただ、それはあくまでコードネームであり、本名はジョー・ピストーネ、犯罪組織に囮捜査官として潜入した時の偽名が「ドニー・ブラスコ」だったというわけです。

つまり一言で言ってしまえば、マフィアに潜入したおとり捜査官の壮絶な活躍を描くのがこの映画なのです。

警官なのに、時には本物のマフィアよりマフィアっぽい、そんな状況です。このドリーを、今をときめくジョニー・デップが実にリアルに演じています。

このドリーが宝石屋という触れ込みで、マフィアの顔役であるレフティという男に接近するところからこのドラマは始まります。

そのドスのきいた顔役を演じるのが、アル・パチーノです。アル・パチーノといえば、正義感の強い若い警官(『セルピコ』)からシェークスピア作の有名な腹黒いベニスの商人までするりとこす、実に演技の引き出しの役者です。

もうそれだけでどれだけ吸引力のあるドラマか想像がつくでしょう。

フェイクの見どころと解説

導入部から隠語をちらつかせ

映画の冒頭、まずはちょっと物騒な感じのニューヨークのダイナーのテーブル席に、無骨でむさくるしい野郎どもが座って一杯やっています。

それと同時に、やけに異彩を放つ男がカウンターにいます。それを目ざとく見つけるのが、アル・パチーノのレフティ。カウンターに座っているのがドニー役のジョニデです。

一方、テーブル席のほうには世間知らずな天然系のウェイトレスが注文とりにやってきて、「あんたたちって、ほんとにwise guyなの?」と聞くので、「はは、こいつはいいや」とまず一笑い起きます。

というのは、wise guyというのは、そのまんまの「賢い人」という意味でもなく、そこから少し発展した「知ったかぶる生意気なやつ」という一般の意味でもなく、もっと裏の「その筋の人」という意味だったのです。

要するにマフィアのことですね。本物のマフィアたちに「あんたたち、ほんのにマフィアなの?」と聞くような、怖い物知らずというか、おバカさんな子なわけです。その誤差に、つい、笑っちゃいます。

ガセものと見抜いた宝石屋こそガセものなのに…

その数日後、ドニーが宝石屋だと聞きつけたレフティが、また例のカウンター席にいたドニーに近づき、ハンカチに包んで持ってきた指輪を見せ、こいつを鑑定しろと迫ります。これがドニーとレフティのなれ初めです。

ところが、強面(こわもて)のレフティに向かって、あっさり、そいつはfugazy(フガツィ)だとドニーはあっさり言い放ち、ここでもまたそれらしい隠語をばらまきます。つまり、あまり聞きなれないfugazy「ガセもの」という隠語です。

借金のカタに手に入れたティファニーのダイヤの指輪だと聞いていたレフティは、それを聞いて、カンカンに怒り、それをよこしたチンピラのいるレストランにドニーを連れだって行きます。

が、チンピラは「なにィ、ガセものだと、ふざけるな」と逆切れ。今度はそのチンピラを、レフティではなく、ドニーがボコボコに締め上げます。それは、レフティからの深い信用を得るための、ドニーの「取り入り作戦」でもありました。

ニセモノと見破った宝石の目利きぶりに加え、腕っぷしもいいドニーをレフティはすっかり信用してしまいます。つかみは上々というわけです。

「どっちが先に店を出る」論争 

 映画の中では、すっかりドニーにほれこんだレフティは、マフィアのしきたりを教えるところもそれらしくておもしろいです。

「弟分」のことはconnected guyと言うんだとか、「いっちょ前の身内」はmade guyと言うんだとか、また「ほんとに信用できるやつ」のことをstand-up guyと言うんだ、などなど。

本物のマフィアしか知らない独特の隠語の講釈をして、ドニーをstand-up guyに仕立て上げるまでが描かれます。

たとえば、いつものドニーがいるダイナーのカウンターにレフティがやってきて、ちょっとした言い争いになって、ドニーが席を立とうとすると、「You’re gonnna walk out on me? (お前、俺より先に出るつもりか?)」とレフティは色をなします。

この walk out on~(誰それ)というフレーズは、よく恋愛関係で相手を捨てるという意味でロマコメなんかではよく使われますが、ただ歩いて出ていく(walk out)という意味だけではないんです。このonは「不利のon」と言って、場合によっては相手をコケにするというニュアンスがあるんです。

たとえば、愛する人と砂漠で二人きりになって、愛する人が死にかかっている時、Don’t die on me.と言ったりします。「わたしを残して死なないで」という意味です。ここはコケのニュアンスはないですが、死なれたら、不利になりますよね。だから、「不利のon」なのです。

つまり、レフティは「お前は俺より先に出て、一人残して、コケにするつもりか」と怒ってるわけです。字幕では、こういう細かいニュアンスの仕組みが分かりにくいとは思いますが・・・

“Forget about it.”ムービーと言ってもいいこの映画

言葉の使い方がおもしろいのは、このダイナーのくだりばかりだけでなく、この映画ではいろいろと散りばめられています。

70年代当時、世間にはびこっていた組織犯罪をつぶすための囮捜査 という設定だけに、ドニーはレフティたちのグループの最深部にまで潜入して命を張っています。

重要情報の証拠を取るためにブーツの中に小型テープレコーダーを忍ばせ、隠し録りをしたりするわけです。

で、その音の証拠をFBIのアジトに戻って分析してもらうわけなんですが、ドニーが録音してきたテープを分析官たちは耳にタコができるぐらい聞いているわけです。

そんな時、分析官の二人が一服してる時、暑いので額に缶ビールを置いては頭を冷やす格好でソファーに寝ているドニーの横で、一人が缶ビールを開けながら、「なあ、ちょっと聞いてもいいか」と言います。

当時まだ無名だったポール・ジアマッティが演じる捜査官です。

「レフティは〝くそっタレ〟が口癖だけど、あれはどういう意味なんだ?」と。

その〝くそっタレ〟は、原語ではただ “Forget about it.” と言ってるんですが、このフレーズは本来〝くそっタレ〟というほど、汚い言葉ではなく、”Forget it.” とほとんど同じ意味で、「気にするなよ」とか「別にいいんだ」ぐらいの意味で日常会話でもよく使う言葉です。

ところが、レフティはそういった普通の意味以上に、もっと汚い「ふざけるな」「ばか言え」「お前、アホか」となどなど、十種類近くの強いニュアンスでも使っています。

そのレフティが使うさまざまな用法とニュアンスを、ソファーに寝そべりながらドニーが分析官たちに逆に講釈するところがおもしろく、ある意味で「その筋の世界」の複雑さを言葉が説明してくれる、この映画の白眉と言ってもいいシーンで必見です。

絶対に見逃さないでくださいね! えっ、そんなのどうでもいいですって!? では、Forget about it. ということで。

フェイクがリアルになっていく怖さ

ドニーがモノホンのマフィアらしくなって、レフティの信用を勝ち取っていけばいくほど、カリフォルニアで夫の帰りを首を長くして待っている妻とその二人の幼い娘たちがいる家庭生活は崩壊の一途をたどりります。

ドニーが苦労して男と男どうしの友情をはぐくんだレフティも最後には裏切る形になるのは、当初からの作戦でした。しかし、そのジレンマの中で葛藤するドニーの引き裂かれるような心の葛藤がこの映画の最大の見どころです。

その後もどっぷりとマフィアの世界につかり、仕事とはいえマフィア以上にマフィアになっていくドニーが置かれた立場の皮肉と胸が張り裂けんばかりの苦衷が、じわじわと描かれていきます。そして、時には人を殺めなくてはいけないような状況にもドニーは追い込まれていきます。

さて、もう後戻りできないドニーとレフティの男どうしの友情にはどんな結末が待ち受けているのでしょうか? フェイクがフェイクでなくなっていくリアルさに、何度もまた観たくなってしまう、これぞmade movieが『フェイク』です!! フェイクこそリアルで、リアルはフェイクというメビウスの輪のような入り組んだ二律背反の極み。

心を通い合わせた男どうしの信頼の行方と、言葉というディテールを通して盛り上げていくリアリズム。この映画の英語がおもしろいとネイティブに言われた意味がこれで少しはお分かりいただけたでしょうか?

偽りから生まれた男たちの友情を実話にも基づき描くクライム・サスペンス、「フェイク」は Netflix で絶賛配信中です。